罪名:傷害致死 T被告人:男性(30代) 職業:アルバイト
切なく悲しい「家族とは」と考えさせられる事件です。
犯行時が詳細に語られるので、読み進める人は注意してね。
今回は裁判官からの被告人質問。犯行時や被告人の心理について聞き取って行きます。
被告人質問 裁判員
裁判員:お父さんにどう償って行こうと思っていますか?
T被告人:具体的にはまだわからない。家族のために償いたい、支えたいと思います。
裁判員:死者に対する償いはないのですか?
T被告人:自分が早く死ねばいいのではと思うが、母や兄妹を思うと。支えていきたいと思う。
ここの部分、裁判員の方がちょっとひっかかった様子でした。
年配の女性でしたが「死者への償い」という意味で質問しているのに、返答は残った家族に対しての思いでした。
「謝罪や贖罪の中にお父さんがいない」感じは、傍聴していた私も感じたところ。
ただ「残された家族が心配で、亡くなった父も心配しているだろう」とも受け取れるので、なんとも言い難い。
裁判員:暴力を振るったあとどう思いました?
T被告人:気分は良くなかったです。イライラをぶつけていた。
裁判員:殴った目的は?
T被告人:口で言ってもわからないと思いました。
裁判員:日々のストレスが溜まっていた?
T被告人:それはあると思います。
裁判員:苛立ちをぶつけたということですか?
T被告人:そう思います。
裁判員:1月2日にお父さんは呻き声をあげていた。1月3日も大きな声で呻いていたのを聞いてどう思いましたか?
T被告人:「やめてくれ」と言っても、次からはちゃんとしろよって気持ちがありました。
裁判員:あなたの身長体重は?
T被告人:165㎝、70㎏ぐらいです。
裁判員:お父さんは?
T被告人:162㎝ぐらい。自分より細い。
裁判員:謝ったことはありますか?
T被告人:ありません。言いづらかった。
裁判員:何で言いづらい?
T被告人:何となく。
裁判員:お父さんの立場に立ったらどう思う?
T被告人:今思うと父も好きで病気になったわけじゃないのにと思います。
裁判員:お父さんはどんな気持ちだったと思いますか?
T被告人:理不尽と感じていたと思います。
裁判員:以前の暴力と比べて事件時の力の強さはどれくらいでした?
T被告人:1月3日の方が強かったかもと思います。
裁判員:脇腹を選んだのはどうしてですか?
T被告人:頭とかよりは大したことないと思ったので。
裁判員:「日課」の内容は?
T被告人:自分たちで考えました。医者には聞いていません。何もしないよりはいいと母が言ったので。
裁判員:経済的なことは理由になりましたか?
T被告人:それもありました。父はまだ若いから、認知症が治るかもと思ったんです。父としての義務を果たして欲しいと思ってました。
自分たちで決めた「日課」が、お父さんの認知症の進行具合と合っていたのか
そもそも効果があることだったのか疑問が残ります。
できないことをやらされるお父さんも辛かったのかな。
できないって言えなかったのかなと切なくなりました。
検察側 論告
内容について証明十分。犯行内容は危険性が高く悪質と思われる。
拳で背中や脇腹を10数発殴り、その間被害者は無抵抗だった。
11ヶ所の肋骨骨折や打撲の後、胸に血が溜まっていたことがわかっている。
思い通りにならないからと暴力をふるった、悪質な犯行に情状酌量の余地はないと考える。
父親の認知症の進行を止めたいとの思いがあることもわかる、反省もしており家族も被告が刑務所に入ることを望んでいない。
しかし傷害致死での最小の量刑の判決が出た例は、介護疲れからの犯行や被害者に持病がありその発症も重なったなどの場合。
今回のように「家族が望んでいる」という理由で量刑が軽くなることはない。
求刑は懲役6年相当と考える。
弁護側 弁論
自分の思い通りにならないことからの暴力、殴ったことに酌量の余地なし、それでいいのでしょうか。
優しく大人しい性格だった被告がなぜ暴力をふるったのか。
幼い時から経済的に苦しく高校生の妹も含めて4人家族で、父の借金もあり苦しい生活が続いていた。
父が50代半ばで認知症を患い、その年齢であればできるはずのこともできない。
家族に対して父親としてやるべきことをやってほしいという気持ちは一定の理解ができる。
父の失職と共に被告人の職場も倒産し、母は家族を引っ張るタイプではなかったため、再就職しながら家族をささえ衰える父を見ることで精神を保つことができなくなっていった。
父のために日課をつくったのに何も改善していかない虚無感。母や姉は被告人を責めてはおらず、家族のこと父のことを任せすぎたと思っている。
被告人自身も「自分がどうにかしなければ」という思いが空回りし、行政に頼るという考えにも至らなかった。
被告人はとても反省しており、家族も刑務所に入ることは望んでいません。
執行猶予付きの判決を望みます。
T被告人 最後の言葉
家族には申し訳ないことをしました。父には一番申し訳ないと思っています。
今後同じ状況になったとしても、こんなことにはならないようにしたいと思います。
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